結論

副業で開業届を出して後悔する人は、「開業届を出せば、事業所得になって節税できる」と思い込んでいます。けれども、副業の所得が事業所得になるか雑所得になるかは、届出の有無ではなく、帳簿をつけて保存しているか、事業として続けている実態があるかなどで判断されます。開業届は節税の近道ではなく、事業として記録と申告をきちんと続けるという宣言です。出す前に、帳簿・青色申告・会社への届け出の3つを確かめましょう。

1失敗ストーリー

「赤字なら給料の税金が戻る」と信じた、Aさんの話

昼休みのキッチンカー前のベンチで、前の職場の同期Aさんから開業届の失敗談を聞き、驚くまなぶのイラスト

ある日の昼休み、まなぶはオフィス街のキッチンカーの前で、前の職場の同期だったAさん(30代女性)にばったり会いました。Aさんは今、食品メーカーで営業事務をしながら、週末にWebライターの副業をしています。ベンチでお弁当を広げると、Aさんは「去年、開業届を出したんだけど、正直ちょっと後悔してる」と苦笑いしました。(登場する人物は、よくある失敗をもとに編集部が再現したものです)

きっかけは、SNSで見かけた「会社員こそ開業届を出そう」という投稿でした。開業届を出せば副業は事業所得になる。経費をたくさん計上して赤字にすれば、給料から引かれた税金が戻ってくる。そんな内容です。副業の収入は年40万円ほど。Aさんは「これなら私にもできる」と、すぐに税務署に開業届を出しました。

その年、Aさんは新しいノートパソコンやカメラ、オンライン講座などに合わせて100万円近くを使いました。帳簿はつけず、レシートは封筒にまとめて入れただけ。確定申告では、副業を事業所得として60万円の赤字にし、給与と差し引きして税金の還付を受けました。「本当に戻ってきた!」と、そのときは喜んでいたそうです。

ところが翌年、税務署から申告の内容についての問い合わせが届きました。帳簿がなく、収入も本業に比べて小さいことから、Aさんの副業は事業所得ではなく雑所得にあたると説明を受けました。雑所得の赤字は、給与と差し引きできません。Aさんは申告を直し、戻ってきた税金を納め直すことになりました。

さらに、会社の就業規則を読み返すと、「個人で事業を始めるときは届け出ること」と書いてありました。Aさんは、副業のことは上司に話していたものの、開業届を出したことは伝えていなかったのです。「節税のつもりが、手間と気まずさだけが増えちゃった」。Aさんはキッチンカーのコーヒーを見つめながら、ため息をつきました。

2原因分析

副業で開業届を出して後悔する5つの理由

1

開業届を出せば、事業所得になると思い込んだ

開業届は、個人で事業を始めたことを税務署に知らせる書類です。出したからといって、副業の所得が自動的に事業所得になるわけではありません。2022年に見直された国の考え方では、取引を記録した帳簿書類を保存しているかどうかが判断の大きな目安になりました。ただし帳簿があっても、収入が本業に比べてごくわずかな場合や、赤字が続いていて改善の取り組みもない場合は、事業所得と認められないこともあります。

2

赤字を給与と差し引きできると期待した

事業所得の赤字は、条件を満たせば給与などほかの所得と差し引きできます(損益通算)。一方、雑所得の赤字は、ほかの所得と差し引きできません。SNSで見かける「赤字で税金が戻る」という話は、この違いを省いていることが多いのです。そもそも、税金を戻すためにお金を使うのは、手元のお金を減らしているのと同じです。必要な支出かどうかは、節税とは切り離して考えましょう。

3

青色申告と帳簿づけを、後回しにした

開業届とあわせて「青色申告承認申請書」を出し、帳簿をつけて申告すると、青色申告特別控除などの特典を受けられます。ただし申請には期限があり、新しく事業を始めた場合は、原則として開業日から2か月以内です。Aさんは開業届だけ出して満足し、申請も帳簿も手をつけないままでした。開業届のメリットの多くは、記録をつけ続けて初めて生きてくるのです。控除の金額や要件は税制改正で変わることもあるため、最新の内容を確かめておきましょう。

4

会社や将来の手続きへの影響を確かめなかった

会社によっては、就業規則で副業や個人事業の開始を届け出るよう決めていることがあります。副業そのものは認められていても、届け出の手順を飛ばすと、信頼を損ねてしまいます。また、会社を辞めたあとに失業給付の手続きをするとき、開業届を出していると事業の状況を確認されることがあります。家族の扶養や会社の手当の条件に関わる場合もあるため、出す前に、自分に関係する手続きを一度洗い出すことが大切です。

5

出したあとにやることを知らなかった

開業届を出すと、毎年の申告や帳簿の保存を事業として続けていくことになります。事業をやめるときには廃業の届け出も必要です。Aさんは「出せば終わり」と考えていたため、出したあとの手間を想像していませんでした。収入が少ない段階では、開業届を出さずに雑所得として申告するほうが、手間に見合う場合もあります。出すか出さないかは、続ける覚悟と記録の準備で決めるのがおすすめです。

3図解

節税目当てで出す人と、準備してから出す人の違い

⚠ 後悔する人のパターン
SNSの「開業届で節税」を見て、すぐに届け出る
↓
青色申告の申請も帳簿づけもしない
↓
税金を戻すために、大きな買い物をする
↓
事業所得の赤字として、給与と差し引きして申告する
↓
雑所得と判断され、申告を直して税金を納め直す
◎ 後悔しない人のパターン
副業を事業として続けるのか、自分の方針を決める
↓
会社の就業規則や、家族・手当への影響を確かめる
↓
帳簿のつけ方と、青色申告の申請の期限を確認する
↓
開業届を出し、毎月の記録を続ける
↓
所得の区分に迷わず、控除も生かして安心して申告できる
4解決策

副業で開業届を出す前のチェックリスト

開業届は、出すこと自体が悪いわけではありません。大切なのは、出す理由と出したあとの準備がそろっているかどうかです。次の項目を確かめてから判断しましょう。

  • 開業届を出す目的を、「節税」以外の言葉で説明できる
  • 副業の収入の見込みと、続ける期間をおおまかに決めた
  • 取引を記録する帳簿を、毎月つける準備ができている
  • 青色申告を使うなら、承認申請書の提出期限を確認した
  • 事業所得と雑所得の違い、赤字の扱いの違いを理解した
  • 会社の就業規則で、副業や個人事業の届け出の決まりを確かめた
  • 家族の扶養や会社の手当、将来の失業給付への影響を調べた
  • 迷ったときは、税務署や税理士に相談すると決めた

Aさんは申告を直したあと、会社に副業の届け出を出し直し、今は毎月の売上と経費を表計算ソフトで記録しています。翌年からは青色申告の承認申請も出しました。「最初から帳簿をつけていれば、開業届はちゃんと味方になってくれたんだと思う」とAさん。買い物をするときも、「節税になるか」ではなく「仕事にどう役立つか」を先に考えるようになり、使わない道具が増えることもなくなったそうです。経費にできる範囲の考え方は副業の経費で失敗する人の特徴5選で、申告の流れは副業の確定申告で失敗した話でも紹介しています。

※所得の区分や青色申告の要件は、2026年10月時点の一般的な内容です。個別のケースでどの区分になるかは、収入の規模や記録の状況などで判断されます。迷ったときは、税務署や税理士に確認してください。
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副業の税金とルールで困らないために

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支出を可視化したい人向け

サブスク管理・家計簿アプリ【マネーフォワードME (ミー)】

副業の売上や経費の出入りを、本業の家計とは分けて見える化できるタイプです。毎月の記録の習慣をつける第一歩として使うと、帳簿づけへのハードルが下がります。何にいくら使ったかが残るので、「その支出は本当に必要だったか」を振り返るのにも役立ちます。

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確定申告や税務が不安な人向け

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開業届を出すべきか、事業所得と雑所得のどちらで申告するかといった、副業の税金の判断について相談できるタイプです。SNSの情報だけで決めてしまう前に、自分の収入や記録の状況にあてはめて確認できます。早めに相談しておけば、あとから申告を直す手間も防げます。

相談してみる

まなぶまなぶ
開業届を出せば、それだけで節税になると思ってた…。大事なのは届出より、帳簿と中身なんだね。
みらいみらい
そのとおりです。事業所得かどうかは、記録をつけているか、事業として続けているかで判断されます。出す前に、帳簿・青色申告・会社への届け出の3つを確かめておきましょう。
まなぶまなぶ
開業届は「節税の近道」じゃなくて、「記録を続ける約束」なんだ。出すなら、準備をそろえてからにしよう。

副業で開業届を出して後悔しないために大切なのは、節税だけを目的にしないこと、そして帳簿と申告を事業として続ける準備をしてから出すことです。会社の決まりや家族への影響まで確かめれば、開業届は副業を育てる心強い土台になります。副業の税金・契約・ルールで失敗しないための考え方は、副業の税金・契約・ルールの失敗から学ぶでまとめています。

副業の税金・契約・ルールについては、公務員の副業で失敗しない方法や、副業でアルバイトを掛け持ちして後悔する理由もあわせて読んでみてください。

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