結論

退職時の誓約書で失敗する人の多くは、「みなさん書いていますので」と言われるまま、内容を読まずにその場でサインしてしまう人です。退職時の誓約書には、会社の秘密を守る約束のほか、一定の期間、同業他社で働くことや前の会社の顧客に営業することを制限する約束(競業避止)が書かれていることがあります。転職先の仕事と重なると、入社してから思わぬトラブルになりかねません。誓約書は、読んで、分からないところを確かめてからサインするものです。この記事では、まなぶが聞いたAさんの失敗ストーリーをもとに、退職時の誓約書で失敗した原因と、サインの前に確かめたいことを解説します。

1失敗ストーリー

最終出社日の前日に、その場でサインしたAさんの話

英会話教室のロビーで、同じクラスのAさんから退職時の誓約書の失敗談を聞き、ハッとするまなぶのイラスト

まなぶが仕事帰りに通っている英会話教室には、同じクラスのAさん(30代女性)がいます。Aさんは、会社向けの業務ソフトを売る会社で7年間営業をしてきて、この春、同じ業界の別の会社へ転職しました。ある夜、レッスンのあとにロビーで話していると、Aさんが「退職のときにもらった誓約書のことで、入社早々ひやっとしたの」と打ち明けてくれました。(登場する人物は、よくある失敗をもとに編集部が再現したものです)

最終出社日の前日、Aさんは人事の担当者に呼ばれ、1枚の誓約書を渡されました。「退職される方には、みなさん書いていただいています」。引き継ぎの資料づくりに追われていたAさんは、ざっと目を通しただけで、その場でサインをして返しました。

そこには、会社の秘密を外にもらさないことに加えて、退職後2年間、前の会社で担当していた顧客に対して営業活動をしないことが書かれていました。Aさんは、そのことをほとんど覚えていませんでした。

転職して2か月がたったころ、前の会社で長く担当していた顧客の担当者から、Aさんあてに連絡がありました。「新しい会社のソフトも、一度話を聞かせてほしい」。Aさんは喜んで提案の準備を始めました。ところが数日後、前の会社の上司から電話がかかってきました。「誓約書の内容は覚えている? 担当していたお客さまへの営業は控えてほしい」。

Aさんは慌てて転職先の上司に相談し、誓約書の写しをもらって、会社の法務担当にも見てもらいました。内容がどこまで有効かは状況によって判断が分かれると言われ、当面はその顧客の担当を外れて、別の地域の顧客を受け持つことになりました。「入社のときに、誓約書のことを転職先にも伝えておけばよかった。最初の目標の立て方も違っていたと思う」。Aさんは、テキストをかばんにしまいながら、小さくため息をつきました。

2原因分析

退職時の誓約書で失敗した5つの原因

1

内容を読まずに、その場でサインした

退職の直前は、引き継ぎや手続きで慌ただしく、書類を細かく読む余裕がなくなりがちです。けれども、誓約書には退職後のあなたの働き方を制限する約束が含まれていることがあります。「一度持ち帰って、内容を確認してから提出したい」と伝えてよいのです。分からない言葉や範囲があれば、その場で質問し、写しをもらっておきましょう。

2

秘密保持と競業避止の違いを知らなかった

誓約書によくある約束は、大きく分けて2つです。1つは、会社の営業秘密や顧客の情報をもらさない「秘密保持」。これは退職後も守るのが当然の約束です。もう1つは、一定期間、同業他社への転職や前の会社の顧客への営業などを制限する「競業避止」です。競業避止は、職業選択の自由とのかねあいで、期間・地域・仕事の範囲・代わりの手当があるかなどから、有効かどうかが判断されるとされています。どちらの約束が、どこまで書かれているかを確かめることが大切です。

3

転職先の仕事と重なるかを、考えなかった

同じ業界への転職では、前の会社の顧客や仕事の範囲と、転職先で任される仕事が重なることがよくあります。Aさんのように営業職であれば、前の会社の顧客から声がかかることも珍しくありません。誓約書を受け取ったら、転職先で担当する予定の仕事と、制限の範囲が重ならないかを照らし合わせておきましょう。重なりそうなときは、退職前に会社と範囲を話し合える場合もあります。

4

転職先に、誓約書のことを伝えていなかった

転職先の会社にとっても、新しい社員が前の会社とトラブルになることは避けたいものです。誓約書の内容を入社前に伝えておけば、配属や担当の顧客を最初から調整してもらえることがあります。Aさんは何も伝えていなかったため、入社後に担当を変えることになり、最初の目標の立て直しも必要になりました。誓約書の写しは、転職先と共有できるように保管しておくと安心です。

5

困ったときの相談先を知らなかった

誓約書をめぐって前の会社から連絡があったとき、一人で判断して動くと、話がこじれることがあります。まずは転職先の上司や人事、法務の担当に相談し、必要であれば弁護士などの専門家に意見を聞きましょう。誓約書の内容がすべてそのまま有効になるとは限りませんが、自分だけで「これは無効だろう」と決めつけるのも危険です。早めに相談するほど、選べる対応は広がります。

3図解

その場でサインする人と、確かめてからサインする人の違い

⚠ 退職時の誓約書で失敗する人のパターン
最終出社日の前日、慌ただしい中で誓約書を渡される
↓
内容を読まずに、その場でサインして返す
↓
写しをもらわず、転職先にも何も伝えない
↓
入社後、前の会社の顧客から声がかかり、そのまま提案を進める
↓
前の会社から連絡が来て、担当や目標の立て直しが必要になる
◎ 誓約書と上手に向き合う人のパターン
入社時に書いた誓約書や就業規則を、退職前に読み返す
↓
退職時の誓約書は、持ち帰って内容を確かめる
↓
分からない点や範囲を、会社に質問して写しをもらう
↓
転職先に内容を伝え、担当や仕事の範囲を調整する
↓
約束を守りながら、新しい職場で安心して働き始められる
4解決策

退職時の誓約書で失敗しないためのチェックリスト

誓約書は、前の会社との最後の約束です。サインをする前と、転職先に入る前に、次の項目を確かめておきましょう。

  • 入社時に書いた誓約書や、就業規則の退職後の決まりを読み返した
  • 退職時の誓約書は、その場でサインせず持ち帰って読んだ
  • 秘密保持と競業避止、それぞれの約束の範囲を確かめた
  • 制限の期間・地域・仕事の範囲が、転職先の仕事と重ならないか照らし合わせた
  • 分からない点は会社に質問し、誓約書の写しをもらった
  • 誓約書の内容を、入社前に転職先の担当者に伝えた
  • 前の会社から連絡があったら、一人で判断せず転職先や専門家に相談すると決めた

Aさんは今、新しい地域の顧客を担当しながら、着実に実績を積み上げています。前の会社の顧客には、誓約書の期間が終わるまでは自分から営業しないことを決め、問い合わせが来たときは転職先の別の担当者につなぐようにしたそうです。退職前の情報の扱いで気をつけたいことは、最終出社日までの過ごし方で失敗しない方法でも紹介しています。退職のあとにやる手続きは、退職後の手続きを後回しにして失敗した話もあわせて確認しておくと安心です。

※誓約書の内容が有効かどうかは、約束の期間や範囲、職種、代わりの手当の有無などによって個別に判断されます。この記事は一般的な内容で、個別のケースを判断するものではありません。具体的な対応は、転職先の担当者や弁護士などの専門家に相談してください。
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まなぶまなぶ
退職のときの誓約書に、前のお客さまへの営業を制限する約束まで書いてあるなんて…。その場でサインするのは怖いですね。
みらいみらい
誓約書は、持ち帰って読んでからサインしましょう。秘密保持と競業避止の範囲を確かめ、転職先の仕事と重ならないかを照らし合わせて、入社前に転職先にも伝えておくと安心です。
まなぶまなぶ
最後の1枚こそ、ていねいに読まないといけないんですね。

退職時の誓約書で失敗する原因は、慌ただしい中で内容を読まずにサインし、転職先の仕事との重なりを確かめず、転職先にも伝えないことです。持ち帰って読み、範囲を確かめ、写しを保管して転職先と共有する。それだけで、前の会社との約束を守りながら、新しい職場で安心して働き始められます。内定から退職までの流れで失敗しないための考え方は、内定から退職までの失敗から学ぶでまとめています。

内定・退職手続きについては、退職日の決め方で失敗する人の特徴5選や繁忙期に退職を伝えて後悔する理由もあわせて読んでみてください。

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