結論

AIの研修で失敗する人の多くは、「研修を開いて、受講者が満足すれば成功」と考えています。けれど、研修のゴールは満足してもらうことではなく、受講した人が自分の仕事でAIを使えるようになることです。全員に同じ内容を一度教えるだけでは、研修の日の熱は数日で冷めてしまいます。職種ごとの業務に合わせた内容にし、自分の仕事で試す時間とフォローを用意し、研修後の行動の変化まで確かめる。この流れをつくることが、AI人材育成を成果につなげる近道です。

1失敗ストーリー

満足度4.5点の研修で、何も変わらなかった

社内の自動販売機コーナーで、研修を受けた社員から本音を打ち明けられ、はっとするまなぶのイラスト

全社一斉のAIツール導入でつまずいたあと、まなぶたち導入プロジェクトチームは、利用を広げるための次の手を考えていました。「使い方が分からない人が多いなら、研修をすればいい」。そう考えたまなぶは、全社員向けのAI研修を企画しました。

外部の講師を招き、2時間の研修を部署ごとに順番に開くことにしました。内容は、AIツールの基本機能の紹介と、文章の要約や翻訳などのデモです。講師の話は分かりやすく、会場では何度も笑いが起きました。研修後のアンケートでは、満足度は5点満点中4.5点。「とても分かりやすかった」「AIの可能性を感じた」という声が並び、まなぶは手応えを感じていました。

ところが1か月後。利用状況を確認したまなぶは、思わず画面を見直しました。研修の前とほとんど変わっていなかったのです。研修の直後に少し増えた利用は、2週間ほどで元の水準に戻っていました。

理由を知りたくて、まなぶは何人かの受講者に話を聞いて回りました。社内の自動販売機コーナーで会った営業部の社員は、少し申し訳なさそうに言いました。「研修は面白かったんだけど、自分の仕事のどこで使えばいいのかが分からなくて。翌日からは、いつもどおり忙しくなっちゃったんだよね」

ほかにも、「上司がAIを使っていないから、仕事中に試すのは気が引ける」「分からないことがあっても、誰に聞けばいいのか分からない」という声が聞かれました。研修は、受講者にとって「楽しい2時間」で終わっていたのです。一方で、経理部のある社員だけは、研修のあとも毎日AIを使っていました。話を聞くと、研修の帰りに自分から上司に相談し、月次の報告書の下書きにAIを使うと決めていたのだといいます。使い続けた人と使わなくなった人の違いは、「自分の仕事のどこで使うか」が決まっていたかどうかでした。

報告を受けた部長は、まなぶにこう言いました。「研修をやったことは、成果じゃないんだよ。研修のあと、みんなの仕事がどう変わったかが成果なんだ」。まなぶは、研修を開くことそのものが目的になっていたことに気づきました。

2原因分析

AI研修で失敗する原因

1

職種やレベルに関係なく、全員に同じ内容を教えた

営業、経理、開発、総務。部署によって、AIを使えそうな仕事はまったく違います。また、すでにAIを使いこなしている人もいれば、一度も触ったことがない人もいます。全員に同じ内容を教えると、ある人には簡単すぎ、ある人には難しすぎ、多くの人にとって「自分の仕事とは関係ない話」になってしまいます。職種やレベルに合わせて内容を分けることで、研修は一気に自分ごとになります。

2

機能の紹介ばかりで、自分の業務で使う練習がなかった

AIツールにどんな機能があるかを知っても、それを自分の仕事のどこで使うかが分からなければ、行動にはつながりません。研修の中で、受講者が実際に自分の業務の資料やメールを題材にAIを試してみる時間があれば、「この作業ならAIで楽になる」と実感できます。知ることよりも、自分の仕事で一度使ってみることが、研修のあとも使い続けるきっかけになります。

3

研修のあとのフォローを用意していなかった

研修の日に学んだことも、実際の仕事で使おうとすると、必ずつまずく場面が出てきます。そのときに相談できる人や場所がなければ、多くの人は元のやり方に戻ってしまいます。研修後に質問を受け付ける窓口を設ける、数週間後に活用例を共有する会を開く、部署ごとに相談役を決める。研修は一回きりのイベントではなく、その後の定着までを含めて設計する必要があります。

4

上司や管理職を巻き込んでいなかった

受講者が「試してみたい」と思っても、上司がAIの活用に関心を持っていなければ、仕事中に新しいやり方を試すのはためらわれます。管理職が率先して使ったり、部下が試す時間を認めたりしていれば、研修の学びは現場に根づきやすくなります。研修の対象は受講者だけでなく、その上司も含めて考えることが大切です。管理職向けに、部下の活用を後押しする方法を伝える場を設けるのも効果的です。

5

満足度だけを測り、行動の変化を測っていなかった

研修後のアンケートで満足度が高くても、それは「研修が楽しかった」ことを示しているだけです。本当に知りたいのは、受講した人がその後どれだけAIを使い、どんな仕事が楽になったかです。研修の前後で利用状況を比べる、数週間後に「実際に使った場面」を聞く、業務時間の変化を確かめる。行動と成果の変化を測ってはじめて、研修の効果を判断し、次の改善につなげられます。満足度が高いのに行動が変わらないなら、それは研修の内容と仕事のつながりが弱いというサインです。

3図解

失敗するAI研修と、成果につながるAI研修の違い

⚠ 失敗する研修のパターン
全員に同じ内容の座学研修を一度だけ開く
↓
機能の紹介とデモが中心で、実際の業務では試さない
↓
アンケートの満足度を見て成功と判断する
↓
研修直後だけ盛り上がり、数週間で元どおりになる
◎ 成果につながる研修のパターン
職種とレベルに合わせて、内容と使う場面を分ける
↓
自分の業務を題材に試し、研修後の相談先を用意する
↓
上司も巻き込み、数週間後の行動の変化を確かめる
↓
研修の学びが仕事に根づき、活用が広がっていく

2つのパターンの違いは、研修の内容の面白さではありません。研修を「教えるイベント」と考えるか、「仕事が変わるまでの取り組み」と考えるかの違いです。

成果につながる研修は、研修の日を始まりと考えています。受講者が自分の仕事でAIを試し、つまずいたら相談でき、うまくいった例が周りに共有される。その流れがあるからこそ、研修の学びが一人ひとりの仕事に定着していくのです。研修の時間を短くしてでも、その後のフォローに力を入れるほうが、結果的に効果が大きくなることもあります。

4解決策

AI研修で失敗しないためのチェックリスト

  • 研修の目的を「満足度」ではなく「研修後にどの業務でAIを使えるようになるか」で決める
  • 職種やAIの経験に合わせて、研修の内容やクラスを分ける
  • 受講者が自分の業務の資料やメールを題材に、実際にAIを試す時間をつくる
  • 研修後の質問窓口や、数週間後の活用例を共有する場を用意する
  • 管理職にも研修の目的を伝え、部下が仕事中に試せる環境をつくってもらう
  • 研修の前後で利用状況や業務時間を比べ、行動の変化を確かめる

まずは「研修の中で、受講者が自分の仕事の資料を使って一度AIを試す」時間をつくることから始めてみてください。自分の仕事で「これは楽になる」と感じた体験は、どんなに分かりやすい説明よりも強く記憶に残ります。

また、研修を企画する側がすべてを抱え込む必要はありません。各部署でAIを上手に使っている人に、自分の活用例を話してもらうのも効果的です。同じ職場の人の具体的な使い方は、外部の講師の一般論よりも、ずっと身近に感じてもらえます。

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満足度4.5点で大成功だと思ってたんです…。でも1か月後、みんなの仕事は何も変わっていませんでした。
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研修の成果は、研修のあとに見えてきます。職種に合わせて、自分の仕事で試す時間をつくって、そのあとも相談できる場を用意しましょう。研修の日をスタートにすれば、きっとみんなの仕事が変わっていきますよ。

AIの研修は、社内に活用を広げるための大切な取り組みです。ただし、全員に同じ内容を一度教えて、満足度を確かめるだけでは、研修の熱は数日で冷めてしまいます。職種に合わせて内容を分け、自分の業務で試す時間をつくり、研修後のフォローと上司の後押しを用意し、行動の変化を確かめる。その流れが、研修を「楽しい2時間」から「仕事が変わるきっかけ」に変えていきます。

導入プロジェクトのまなぶが、全社一斉のツール導入でつまずいた話は、全社AIツール一斉導入で失敗した話で紹介しています。

AIを使い始めたばかりの頃に陥りがちな失敗については、ChatGPTを使って失敗する人の特徴でもまとめています。あわせて読んでみてください。

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